能智プロジェクトは2025年4月から、ポスコロSIP山中チーム(室蘭工業大学)と連携し、北海道伊達市の先生方との共働の機会を得ました。山中チームおよび伊達市との連携を記念し、北海道伊達市や伊達市の学校の魅力や能智プロジェクトの活動の様子をご紹介。ナビゲーターは北海道伊達市にお住まいのフリージャーナリスト粟島暁浩さんです。地元目線で語られる能智プロジェクトの魅力もぜひ堪能ください。
第4回 能智プロジェクトが北海道伊達市で本格化(前編)
【能智教授とカウンセラー だての先生と交流深める】
北海道伊達市で今春から、東京大学大学院教育学研究科の能智正博教授をチームリーダーとする「せんせいサポートプロジェクト」が始まっています。教職員対象の心理学的なオンラインし支援を通した地域全体のアップスキリングを目指す試みですが、実際に悩みを誰かに相談しようとした時、どんな人がお話を聞いてくれるのかは大切な要素です。
そこで7月29日、能智教授をはじめ、教職員のカウンセリングにあたる公認心理師/臨床心理士らのチームが伊達市を訪問。だての先生とは初めて直接会っての交流となり、研修会や和やかムードの未来をイメージして語るワークを通して心の距離を縮め合っていました。
このプロジェクトでは、①オンライサロン ②チャット形式のカウンセリング ③ビデオ通話形式のカウンセリング ④チャット形式のAI相談の四つを、伊達市の教職員向けにオンラインで実施します。
特に④は、教員を対象としたものとしては全国に先駆けての取り組みで、9月からスタートします。
【教員の意欲をサポートするカウンセリングに力】
この日は、伊達市教育実践交流・研修会が開かれました。プロジェクトについて説明する全体会と、若手教員向けのサロンの二部構成です。
全体会には140人が参加。能智教授は、「学校の問題はいろいろあるが、見落とされているのは教員のサポート」と強調しました。
学校の現場では、児童・生徒の個に応じた支援や保護者や地域の思いを教育活動に生かすなど、教員も常に新たな課題に挑む姿勢が欠かせません。それだけに、臨床心理学の視点によりカウンセリングなどで「心を軽くする」ことでそうした姿勢を支えるのは重要な試みと言えるでしょう。
「心が重くなると、直面している問題を超えて、自分がだめな人間と思い後ろ向きの姿勢になる」。臨床心理学では物語(ナラティブ)という言葉を使うことがあるそうですが、例えばコップの水に対して「まだ半分ある」なのか「もう半分しかないのか」によって見え方が変わります。
「もう半分しかないと思う「物語」しかもっていない人は、まだ半分あると思う視点の人と話すことで、ものごとを見直す機会が生まれる」と能智教授はいいます。そこで、信頼できる人に話すことの大切さを説き、カウンセラー等との信頼関係のもと、相談したり対話したりすることで「自分を支え心を軽くする視点を見つけて、日々の課題に取り組む気持ちを再構築する機会に」と呼びかけました。
一方で先生という立場は、普段は子どもたちから相談を受ける側だけに、ためらいを感じる人もいるでしょう。「社会心理学で『助けられ上手は助け上手』ということを示した研究もあります。援助される体験が豊かなひとは、援助する体験も豊か。子どもたちの相談にも役立つでしょう」(能智教授)。気軽に相談してほしいそうです。
【オンラインカウンセリングチームのメンバー登壇 参加呼びかけ】
オンラインカウンセリングチームの梶原佐保さんは、オンラインカウンセリングについて具体的な流れや登録の方法について詳しく説明しました。「学校の話だけでなく、心に引っかかっていること、日常的なこと、職業にからんでいなくても些細なことでも言葉にしてほしい」(梶原さん)とのこと。相談内容を職場に伝えることはなく、匿名で行うことになるので、プライバシーは守られるとのことです。
今回伊達市を訪れた中島隆太郎さん、大橋英永さん、千ゆう子さんの3人をはじめ、オンラインカウンセリングチーム5人のカウンセラーの紹介も行われました。
「私はこの取り組みは本当に大切だと思います」。参加したA教諭は教員8年目。自ら医療機関に受診しカウンセリングを受けていてそれがとても役に立っていることを打ち明けてくれました。
A教諭はかつての職場でのトラウマや、保護者対応の厳しさを経験したそうです。「カウンセリングのお世話にならなければ教員を続けてこられませんでした。これまでは相談するところを自分で探してきました。それだけに無料で受けられることはありがたい」といいます。
教員の間では、カウンセリングより待遇や人手不足の問題解消が先、といった声も聞くそうです。A教諭は「まだすべての先生にこの取り組みの価値が届いていない。必要な取り組みです」と感謝しています。
【初任期の先生とカウンセラー 未来をイメージして語るワークで心通わす】
この日午後の初任段階教員向けのリアルサロンには、14人の先生が参加しました。オンラインカウンセリングチームの千さんが、ストレスマネジメントについて講話しました。
病気で休職する教員は20代の上昇が目立つこと、ストレス要因で圧倒的に多いのは事務的な業務量で、対応困難な児童・生徒の対応が20代でも多いことを挙げていました。
ポイントは、リアリティショック。なりたい教師像、職場の人間関係、経験不足を感じるギャップだそうです。対処法として、職場内でできる小さなリセットとして深呼吸や姿勢を伸ばし、肩や背中をほぐすことを挙げました。完璧主義になりすぎず、ため込まずに愚痴を気軽に話すことの大切さも伝えていました。
初任の時期を乗り切るには、セルフケアと、人とのつながりに目を向け、頼れるものはなんでも頼ることを呼びかけました。
【9月スタートのチャット形式AI相談などを体験】
この後、参加した先生が数人のグループに分かれて、カウンセラーとの未来をイメージして語るワークに入りました。
教員2年目のB教諭は、「初任の先生と臨床心理士さんの3人でしたが、とても話しやすかった。10年後の自分になった設定で過去を振り返っていきましたが、自分はこうなりたい、こんなところを頑張りたいと分かったのがよかった」といいます。
職場ではともに働く教諭はたくさんいて、悩みは今のところは処理できているとのことですが「入ったばかりでわからないことだらけ。メンタルで休む先生の話も聞き、決して他人事ではない」そうです。
サロンの後は、相談チャットなども試したそう。「学校の話題でなくてもよくて、便利な機能で利用したいと思いました。いい環境を用意していただいた」と、実際のカウンセリングについて理解を深めていました。
(粟島暁浩)
