能智プロジェクトは2025年4月から、ポスコロSIP山中チーム(室蘭工業大学)と連携し、北海道伊達市の先生方との共働の機会を得ました。山中チームおよび伊達市との連携を記念し、北海道伊達市や伊達市の学校の魅力や能智プロジェクトの活動の様子をご紹介。ナビゲーターは北海道伊達市にお住まいのフリージャーナリスト粟島暁浩さんです。地元目線で語られる能智プロジェクトの魅力もぜひ堪能ください。

北の伊達の先生たちバナー

第1回 北の伊達で能智プロジェクト始動

 こんにちは。北海道伊達市の粟島です。伊達市住民のひとりとして、待ちわびていた東京大学の能智プロジェクトがとうとう北海道伊達市でスタートしました!「伊達市」というと福島県の伊達市を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、今回はもっともーっと「北の伊達」のお話。本コーナーでは、北海道の中でも特に温暖なこの地域で行われている特色ある教育や、息づく歴史や文化との関わり、先生たちの魅力をお伝えします。

【北の湘南】北海道伊達市ってこんなまち【海を渡ったサムライ】

道の駅だて歴史の杜

 「伊達」というと、独眼竜で名を馳せた伊達政宗が有名ですが、さかのぼるとその流れをくむ、北海道では珍しい武家文化が息づくまちです。最も特徴的なのは、「北の湘南」とこちらで呼ばれるほど、道内で最も温かく雪も比較的少ない地域ということ。 広い道内で伊達市は南の方、札幌と函館のちょうど間にある人口3万882人(2025年3月末現在)の小規模都市です。空撮写真にご注目。市街地の奥には活火山の有珠山や蝦夷(えぞ)富士と呼ばれる羊蹄山、真ん中に島が浮かぶ洞爺湖を望む豊かな自然があります。

地図 羊蹄山

「北の湘南」は、まちおこしの一環で1987年(昭和62年)に地元の伊達青年会議所(JC)が名付けたのがはじまり。当時JCメンバーで名付け親の大和田康夫さんは「当時北海道の湘南と言われていたものの田舎くさい感じがしました。伊達といえば天気の良さ。温暖で住みやすくて、海があって。そのイメージを伝えたかった」といいます。当時は音楽フェスも開いたそうです。

【太古の人にも大人気? 1万年住み続けられる地域】

北黄金貝塚

 伊達の歴史は縄文時代にさかのぼります。ユネスコ世界遺産に登録された「北海道・北東北の縄文遺跡群」の一角が、市内にある史跡北黄金貝塚。写真右の丘にうっすら白く見える貝塚は、人がそこに暮らした証。太古の人も好んで定住した「1万年住み続けられる地域」でもあります。
 この地には古くからアイヌ民族の方たちが暮らしていて、明治時代に仙台藩一門の亘理藩主・伊達邦成とその家臣の武士集団が移住して拓いたまちです。恵まれた自然環境と土壌により、伊達野菜と呼ばれる150種類以上の野菜が大人気。農家ごとのブースがある道の駅は、道内トップクラスの売り上げと集客があります。飛び地合併した市内の大滝区ではノルディックウォーキングやスキーなどアクティビティも盛んです。 
 市内には小学校5校、中学校3校、義務教育学校1校、高校1校、高等養護学校1校の公立学校があります。これからご紹介していきますが、地域産業や歴史・文化に根ざした特色ある教育が行われています。

【北の伊達で能智プロジェクトがスタート】

説明会

 今回、能智プロジェクトが伊達市で取り組むのは、専門家と語り合いながら教職員のメンタルヘルスケアと、特別支援の分野に関する先生方のアップスキリングです。4月15日には能智プロジェクトのメンバーで、伊達市連携マネジャーの尾見康博・山梨大学大学院教授が伊達西小学校を訪れ、市内の教職員約180人に取り組みを説明しました。

【全国に先駆けてAIによるカウンセリング実施へ】

説明会2

 東京大学大学院教育学研究科能智正博教授もオンラインで参加し「プライバシーは守られます。何かあった時の拠り所を増やす意味でもぜひご登録を」と呼びかけました。教職員向けのオンラインカウンセリングはSlackやZoomを活用。尾見教授は、伊達市ではAIによる相談も実施することを伝え「全国にさきがけてAIを実際に使ってもらうことで教員のみなさんのメンタルヘルスや労働環境にプラスに働けば」と思いを語っていただきました。  

 能智プロジェクトのサポートメンバーを務める影山吉則前伊達市教育長は「悩みを抱えている教職員は多く、地元の校長会では『あすにでもやってほしい』という要望があり、東大教育学研究科の協力を得て実現しました。伊達の先生にとって心のセキュリティーが保てる拠り所があるのはとても重要」と期待を込めました。

 参加した教職員は早速スマホで登録。春本番の伊達の地で、カウンセリングを通した地域全体のアップスキリングを目指すプロジェクトが本格的に動き出しました。(粟島暁浩)