副研究開発責任者あいさつ

副研究開発責任者あいさつ

教員―学校組織の
レジリエンス向上が、
地域全体のレジリエンスにつながるモデルを目指して

福畠 真治 (福知山公立大学)

 本プロジェクト研究開発責任者の能智先生より、「地方での取り組みを全国に展開・実装していくための第一歩として、北近畿地域をフィールドにしたい」というお話を頂戴し、今回共同研究者としてプロジェクトに参加させていただくこととなりました。

 この北近畿というフィールドは、近畿地方の日本海側を指す地域であり、古代より大陸文化・技術の交流拠点として栄え、様々な神話や歴史的な出来事の舞台にもなった場所です。自然も豊かで、丹後天橋立大江山国定公園を中心に多くの名勝が存在します。教育に関して言えば、福知山市の合計特殊出生率(2013年―2017年)は2.02であり、全国の市区町村中33位、本州では3位、京都府内で1位と、非常に高い水準であること、「教育のまち」としてシームレス学園構想(保幼小中一貫・連携教育)の実現を目指していることなどが、特長として挙げられます。

 とはいえ、全国的に言われている、過疎化に伴う統廃合や教員の労働環境の問題は、この北近畿地域でも明確に表れており、各自治体が様々な取り組みを実施している状況です。

 こうした地域が抱える様々な課題に対して、福知山公立大学が北近畿地域の企業、行政機関その他各種団体をつなぎ、その解決を目指し、北近畿地域の発展に寄与する場として、北近畿地域連携機構 Kita-re(キターレ)があります。本プロジェクトでは、こうした本学の強みを最大限に活かしながら、北近畿地域における「特別支援ニーズに対する学校教員の困り感・負担感」を解消していくことを1つの側面としており、ここでの成功によって導出されるモデルが、全国の同一課題を抱えた諸地域においても、一定の妥当性を有するものとなるよう、精一杯尽力してまいる決意です。

 また、「教員/学校/地域が、抱える課題を乗り越えていく過程において、成長・活性化していく」という点に関しては、現在私が主たる研究テーマとしている「レジリエンス」概念が有効であると考えています。「レジリエンス」とは、「危機や大きな変化に対して、柔軟に対応・適応していくことを通じて、元の状態に戻っていく/成長していくダイナミクス」であり、学校組織で言えば、教員個人のメンタルレベルだけでなく、組織全体にも妥当する概念になります。さらに、学校間の連携や教育委員会などの行政の支援などによって、その地域全体のレジリエンスが向上するという「コミュニティのレジリエンス」という考え方もできます。本プロジェクトを通じて、「教員―学校組織―地域」のレジリエンス向上に資することが、研究者個人としての目標でもあります。

 最後に、非常に個人的な事柄になってしまいますが、本プロジェクトの学校実装G統括でいらっしゃる勝野先生は、私の指導教官であり、本プロジェクトにてご一緒させていただけることは、非常に光栄であるとともに、身の引き締まる思いで一杯です。勝野先生は、私に「学校経営」を自身の主たる研究領域にしようと決意させてくださった、まさに恩師です。どこまでも学校と教員に寄り添いながら、丁寧に論理を積み重ね、実践現場・社会に還元されている、勝野先生の研究者としての在り方が、私の変わらぬ指標です。本プロジェクトを通じて、少しでもそうした研究者像を体現できるよう、日々学び邁進してまいります。

(ふくはた・しんじ)東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。修士(教育学)。専門は、組織レジリエンスの観点からの学校経営、教育行政。文部科学省・国立教育政策研究所 国際調査専門職を経て、2022年4月より現職。趣味は大喜利。

副研究開発責任者あいさつ

データサイエンスの
知見をもとに、教育の営みを支える

川﨑 洋平 (埼玉医科大学大学院)

 今回は、研究責任開発者である、東京大学の能智正博教授からお誘いを受け、データサイエンスグループリーダーとして、本研究プロジェクトに参画することになりました。私自身、ライフサイエンス分野のデータサイエンスを専門としており、具体的には医学部、看護学部、薬学部でデータサイエンスの教育を行ってきました。私にとっても初の挑戦となる、教育学研究分野でのデータサイエンス分析を担当させていただくことになり、非常にうれしく存じております。

 データサイエンスとは、大量のデータから有益な情報を引き出す技術や手法を総称したものです。私が学生を指導する医学部、看護学部、薬学部でも、データの分析が治療の方針や新しい薬の開発に必要不可欠となっていますが、具体的には、統計学やコンピュータサイエンスを駆使して、データを解析・評価し、新しい知識や洞察を得ることを目指す研究分野です。

 難しそうに聞こえるかもしれませんが、実はすでに教育行政の分野でも使われています。例えば、文部科学省や国立教育政策研究所は、教育のデジタル化を進める中で、データ駆動型の教育政策の立案や実施を強く推進しています。この理由は、教育の質や効果を向上させるための政策や取り組みが実現されることが期待されているからです。

 さらに、私は小学校のPTA会長として、小学校での教育に関しても少なからず関与していることからも、データサイエンスの知見をもとに、教育現場に対して貢献していけたらとも考えています。例えば、児童の学習データを分析することで、個々のニーズに合った指導が可能になります。これによって、一人一人に合った最良の教育を提供することができますが、データサイエンスはこのようなことを可能にするお手伝いができるのです。

 このように、データサイエンスは決して遠い存在ではありません。皆さんの身近なところで、医療から教育まで、多岐に渡って活用されています。未来の教育を支えるツールとして、さらなる可能性が広がっているのです。

 今回の研究に参画くださる現場の先生方、地域・教育委員会の皆さんとの対話を重ねながら、データサイエンスの知見をもとに、教育の営みを支えていけることを楽しみにしています。

(かわさき・ようへい) 京都大学大学院理学研究科修了。博士(理学)。専門は医療統計学。千葉大学医学部附属病院データセンター副センター長、千葉大学・埼玉医科大学で客員教授を併任。2020年4月より現職。